腹膜鞘状突起(Processus Vaginalis)は胎児期に腹膜が精巣の下降を誘導するために伸びる袋状構造で、通常は出生前後に自然閉鎖します。これが完全に閉鎖しない場合、腹水が陰嚢内に流入して交通性陰嚢水腫を形成します。成人では炎症や外傷、分泌不均衡により非交通性陰嚢水腫が生じます。陰嚢水腫切除術(Hydrocelectomy)は標準的な外科的治療法であり、二重局所麻酔下で余分な鞘膜を切除または翻転縫合し、精巣機能の保護と圧迫症状の改善を図ります。
主な臨床症状は無痛性の陰嚢腫大と下垂感・重圧感です。腫大が進行すると歩行や運動に支障をきたし、精巣上体炎や精巣捻転などの合併症を誘発することもあります。持続的な内圧上昇は精巣血流を妨げ、造精機能の低下や精巣萎縮のリスクとなり得ます。また小児の交通性陰嚢水腫を放置すると、鼠径ヘルニアへの進展が懸念されます。
針による穿刺吸引療法は再発率が極めて高く感染リスクもあるため、外科的な鞘膜切除手術(交通性では高位結紮術を併用)が信頼性の高い標準治療として位置付けられています。

手術の目的
- 術中に精巣の性状を直接観察し、潜在する精巣腫瘍や慢性炎症を的確に鑑別・除外します。
- 貯留液を除去して精巣および精索血管への機械的圧迫を速やかに解除し、血流循環を正常化します。
- 未閉鎖の鞘状突起を高位結紮することで、鼠径ヘルニアの発症を予防します。
- 陰嚢腫大による日常的な不快感や衣類の擦れ、心理的ストレスを解消します。
麻酔方法
従来は腰椎麻酔(下半身麻酔)または全身麻酔(静脈麻酔含む)が多く用いられていました。
当院では安全性の高い二重局所麻酔を採用しています。手術部位の知覚神経のみを的確に遮断するため、術中は意識清明のまま痛みを感じることなく、スマートフォン操作や音楽鑑賞をしながらリラックスして受けていただけます。
切開創と入院の要否
陰嚢または鼠径部に沿った約 3 cm の単一切開創です。日帰り外来手術で行われ、入院は不要です。術後短時間の休息ののち、ご自身で歩行してご帰宅いただけます。
手術の手順
仰臥位で二重局所麻酔を施行後、微小切開より筋膜層を丁寧に剥離します。神経や血管を温存しながら貯留液を吸引排出し、過剰な鞘膜を切除または翻転縫合(Jaboulay法等)して液体貯留腔を閉鎖します。吸収糸による丁寧な層別縫合を行い、滅菌ガーゼで保護します。
当院の手術の特徴
- 新式・二重局所麻酔:全身麻酔のリスクや長時間の絶食が不要で、術後の回復が極めて円滑です。
- 皮膚皺に沿った単一切開:目立ちにくい小さな傷跡で良好な整容性を保ちます。
- 完全日帰り対応:入院観察を要さず、その日のうちに日常生活へ復帰可能です。
- 電気メスを使わない低侵襲止血:微細縫合糸による結紮止血を行うことで、熱損傷による神経痛や虚血性組織壊死を防ぎます。
- 高度な微小外科手術技術:細やかな解剖構造の温存により、術後血腫や合併症リスクを最小限に抑制します。
予後とリスクについて
術後一時的に局所の腫れや鈍痛が生じることがありますが、通常の鎮痛薬内服で良好にコントロール可能です。外科手術に伴うリスクとして陰嚢血腫(2〜18%)、創部感染(2〜5%)、再発(1〜5%)などが報告されていますが、精緻な手技と適切な術後管理によりリスク低減に努めています。
参考文献
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